中村 潤 NAKAMURA Megu
縫いの造形
祖母が3年前に亡くなった。しかし祖母の残した衣類、祖母が編んだセーター、祖母の書いたメモ、住所録、それらを纏い、身につけるたびに、目にするたびに、私の皮膚や目を通した先に祖母がいる。私の身体の先にある記憶が祖母を感じさせる。
この作品はキューブの中に紙で箱を作る。糸で紙を縫い、箱になり、襞ができ、キューブの壁と縫い合わせる。眼前の紙に触れ、糸を見、縫い目をたどり、触れる。縫い目は「縫い目」そのものだけで存在しているわけではない。「縫い目」を目にした時、長い状態だった糸、進んだ針、縫い目が広がる紙、そこに当たる光、手触り、縫うという行為、その時間、など、このような事々が一緒になって、見る人の中に入ってくる。眼が慣れ、手で触れ、馴染むうちに、身体の知覚の少し先にある「記憶」や「経験」が顔を出す。個々の視覚、触覚の変化を通して、個々の身体に書き込まれた記憶を掘り起こす。
この作品は見えているものを通して、身体の少し先の見えないものを体験するのである。
紙を糸で縫ってキューブと同寸の巨大な紙袋をつくり、キューブの壁と縫い合わせます。そうすることで生まれる不確かな形、縫い目、上部からさす光、糸、運針の感覚、縫う行為が溶け合い、見えているものを通して、身体の少し先にある「記憶」や「経験」を呼び起こします。
《The shape of sewing》
The artist has sewn paper together to make a gigantic paper bag with the same dimensions as the cube, then sewn this onto its walls. The resulting uncertain shapes, stitches, light passing through from above, and threads, as well as the sense of the movement of the needle and the actual act of sewing all blend together so that what is seen evokes “memories” and “experiences” a little in advance of the body.
NAKAMURA Megu
Born in Kyoto Prefecture in 1985 / Based in Kyoto Prefecture