ミルク倉庫+ココナッツ インタビュー 「映像、音響、土木系技術、電子制御、設計、プログラム、オブジェなど、中世のギルドのように技術交換しながら作る」
<cranky wordy things>
私たちが外部から得たと思っていることは、本当は自らの内から呼び覚まされたものなのかもしれません。たとえば、人が幽霊に取り憑かれる時、その幽霊は外から来たのではなく、もともと身体の内側にいたのかもしれません。では、物が幽霊に取り憑かれることはあるのでしょうか。人の寝入りばなの実験の記録映像と、幽霊に取り憑かれたように勝手に動く道具や物で構成された空間は、私たちの感覚を揺さぶり、物や身体に対する認識を変えていきます。
―「ミルク倉庫」と「ココナッツ」、2組での応募のきっかけを教えてください。
宮崎:八丁堀(東京都中央区)にミルク倉庫が運営していたギャラリー兼アトリエがあり、そこでメンバーの個展をやってきたんですが、あるとき松本君が「修復をテーマにした展覧会をやりましょう」と企画を持ち込んでくれて、去年一年間一緒にやって、活動を共にするようになりました。
元々別のグループがあったというよりも、ミルク倉庫とその他、みたいな形で、ミルク倉庫が今までやっていた活動をもう少し拡大出来るのでは、と2人で話して別名義でグループを作った。その一環で「ミルク倉庫+ココナッツ」という名義で応募させて頂いたという経緯。
〈Galaxy in the weaving factory〉(2012)(c)Azumi Kajiwara
―テーマ「身体のゆくえ」をどのように解釈しましたか。
宮崎:普段からエネルギーが循環するとかエネルギーが交換されるとか、物と人間の関係をテーマにしていたので、それをベースにもう少し突み、それ自体が一つの「身体のゆくえ」と解釈できるだろうと。
松本:端的に言ってしまうと「身体のゆくえ」だから幽霊を作ろうとか、身体的な物の動きってどういうものか、もし物の方に意識があってそれが動き出したらそれは身体といえるのではないかとか。
宮崎:そもそも、エネルギーの交換や、物と人間の関係、物同士の関係を考えてきた。だから「身体のゆくえ」というテーマがそれほど僕らのやってきたことと外れていないというのもあった。
松本:身体に縛られるのではなく、前向きにそれを捉え、先の方に行く、っていうのをディスカッションしながら企画をまとめた感じですね。
―キューブと作品の関係についてお聞かせください。
宮崎:普段自分たちのスペースや、イレギュラーな所での展示が多い。キューブというのはそれも一つのニュートラルなスペースと言ってしまえばニュートラルなんですけど、それも一つのイレギュラーな条件として考え、それをもう一回組み込んで考え直すというアプローチはしてる。
ホワイトキューブと言えば、ある程度、現代美術というかモダンアートの伝統的なモチーフとなるんですけど、可能な限りキューブのキューブさはあまりいじらず、それを条件として組み込んで、個々の作品は配置したり構成する時には一つの要素として、キューブが入ってくるという考え方ですね。逆にキューブをいじるというよりは可能な限りキューブのキューブさをそのまま条件として組み込んでという考え方です。
―2組のグループによる共作を通し、どのような効果を狙っていますか。
宮崎:毎回コンセプト重視なので、その都度、技術が一回素人っぽく落とされるというか一から積み上げていくのと、それまでの蓄積でやれるのと。メンバーでどう補いながらやるか。今までやってなかった音響・映像をはじめ積極的に取り組んで。もともと映像を勉強してた人もいるし、音響を勉強してた人もいるのでその辺が逆にグループでやるのにバランスがとれる方向かなという感じはします。
松本:宮崎さんがおっしゃったみたいにコンセプト重視だから、基本的にはゼロベースなんですね。それからどうやって積み上げていくか、構築していくかを8人のメンバーで話し合いながらやる。多視点的に、「どうやって組み立てるのがベストか、よりベターか」を議論出来るのは、人数が多いというリソースを最大限活かせる。検証しやすいというか反省の回路がいっぱいありますね。
―創作活動で大事にしていることはなんですか。
宮崎:基本的には出来た物に、後から言葉を与えてというよりはそれ自体を客体として扱う。考えてることや計画に、主題があろうがコンセプトがあろうが、出来たものが必ず客体とならなければ意味がなくて、僕らと作品が関係なく存在しているというふうに見せなくてはいけないと気をつけている。作品が成立する、この一つのボーダーラインというものを全員が共有しています。
松本:その上でみんなそれぞれに作家活動していたり音楽活動をしていたり。なんで集まっているかというのは、一つは中世の職人集団とかギルドのように、みんなで作るときは技術を交換しながら作っているので、互助的だし、コンセプトの検証だったり議論だったりはこのメンバーでやっている。客体として成立させるというのは複数の人間が突っ込み入れながらやった方がレベルも上がってくる。
―想像していた以上のものが最終的に出来上がることもあるのでしょうか。
宮崎:そうですね。最初のイメージとは全く違うことが多いじゃんないですかね。ただ、コンセプトはズレないで、見え方が変わっていることが多いですね。
―影響を受けたアーティストは?
宮崎:中世の職人集団や60~70年代のアメリカのアーティストやスチュアート・ブラントっていうヒッピー文化を牽引したような人の活動とかには影響を受けている。
松本:ミルク倉庫の「倉庫」って、「ガレージ」だから、60~70年代のガレージ文化という一つの生産システムを確保している、そういう動き方をしていた作家達は参考になるのかなと。
宮崎:それは作家だけじゃなく、“感じ”や“流れ”というのも含めてだよね。
―過去作品について教えてください。
宮崎:直近だと、3331 Arts Chiyodaギャラリーでやっていた「家計簿は火の車」展。丁度ここに解体して持ってきたのがあるんですけど、アゴスティーノ・ラメリっていう16世紀、1588年に設計したブックホイールという、日本語にすると「回転書棚」を展示棚として再構成した。それをベースに展示を組み立ててというのが直近かな。
松本:その他の大きい作品は去年の〈無条件修復 UNCONDITIONAL RESTORATION〉(milkyeast,2015)で、3階建ての建物を2階と3階を切り離して3階をひっくり返して舟にするっていうのをコンセプトに、瀧口さんと、ここにいる坂川君と、ミルクのメンバー以外も1人入って作ったもの。
物をどういう風にハッキングして組み替えることが出来るかをやっていた。
あと、その前の〈無条件修復 UNCONDITIONAL RESTORATION Pre-Exhibition〉(milkyeast,2015)では、展覧会場の梁が腐食し落ちちゃっているのを、ジャッキアップという方法を使い、その梁を支える鉄のパイプによる機構そのものをオブジェとしました。
坂川:普通なら、2階の床でテンションかければいいのを、わざわざ1階から1階の天井を突き破って2階の床を突き破って2階の梁を支えることにした。なぜかというと、梁を支えるジャッキアップの過重に耐えられるよう、床はコンクリートの打ちっぱなしでないといけないという機能的な理由があったから。
それと、これを作品とするには、もう一つポイントがあって、視覚的には1階からギャラリーに入ると上から鉄のパイプが垂れ下がっているようにみえるんです。でも、2階に上がると上をがっつり支えている。
松本:つまり視覚的には、オブジェが家に依存しているように見えるんだけど、実は作品のほうが家を支えている、建物自体を支えているという、外側と内側の関係が反転してしまうような作り方。
目指すとこはそういう感じですよね。小さい物が大きい物をひっくり返しちゃうとかを考えたい。
〈無条件修復 UNCONDITIONAL RESTORATION Pre-Exhibition〉 photo:中川周
―それぞれ専門分野を持った方が集まられている。他のメンバーの方からも作品への思いがあれば。
宮崎:そこにいる西浜君は、大学から音楽を専攻していて、音楽モチーフにした造形も作るようになって、音楽活動もやって、打ち込みもできる。今回の作品では、映像と音を使うので音響操作を担当します。
西浜:あと、昼間は建築のタイル施工をやっていて、セメントとか土木系の技術を作品に生かして制作していきたいなと思っています。
坂川:僕は、みんなと経歴が違って美大とか音大とかではないんですが、今はガチで電気工事の仕事をしています。高圧に関わる電気工事をしていて、今回の作品では主にオブジェを動かす電子制御をメインにやっていく。
松本:今回仕掛け系多いですもんね。
坂川:映像との兼ね合いでメンバー間で話し合ってどういう動きにしていくかってのを作ってく感じです。
梶原:私は大学が映像科で、卒業後も写真をやっていて、しばらく映像の作品をつくっていたんです。今回の作品は久々に映像を担当する事になりました。
篠崎:僕は建築の教育を受け、すぐ美術を始めたんですけど、普段の自分の制作では建築と彫刻の間を行き来することを意識してます。どちらかというと構築的に物を作ることを考えて、グループ活動もわりとそういった作り方が多いので、そこで貢献していく感じですね。
松本:具体的にはCADを使えたりするので、大きな設計図を書いたりする時は彼にお願いしたりとか。
宮崎:そもそも建築って、芸術のジャンルの中でもテクノロジーとすごく近いから、彼と西浜君と坂川君が電子工作・プログラムを担当してくれたりする。やっぱ得意って感じですね。今回は特にそういう役割。
吉田:自分は古道具とかアンティークを集めるのが趣味なので、昔の道具や今とは違う部分や使い方とか面白さを目利し、確認して作品にしたり、オブジェ選定ができます。
宮崎:今回のコンセプトの根幹の一つに彼の仕事が入ってますね。メンバーが持ってるコンセプトも一回グループで組み込んで、それをもう一度解釈して出すというパターンもあるよね。今回は特に吉田君の仕事からは非常に影響を受けた作品だと思っています。
―来館者へのメッセージをお願いします。
宮崎:第六感で、感覚を拡張してもらえる作品をめざしているので、それを楽しんでもらえたら良いかなと思っています。
松本:普段見ている物がどういった様態を示すのか、普段の物の見方が変わる様な展示を目指します。
2016年11月6日ミルク倉庫(東京都小平市)にてインタビュー
聞き手:伊藤、構成:鳥羽
現象を扱って自然体に作品を見せつつ、状況や身体感覚の顕在化・客体化を試みる作品のようです。コンセプトやテーマが開かれ、感覚や思考を刺激される予感に期待が高まります。
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