仕事を終えて名古屋からかけつけてくれたボランティアさんもいた第1回。展示室に入った瞬間、目に入るキューブに引っかかった人に、一瞬驚き、不思議な世界に引き込まれていきました。
一つ目の〈ニョッキ(如木)2017〉(柴山豊尚)は、床が波打つ木の空間です。「球形のパーツは、職員がいるときのみ触れます。この機会に木肌を味わってみて。押すと転がっていきそうですが、実はビスで留まっているので大丈夫」と、安全面からふだんは触れない展示物にも触れていただきました。二つ目の〈Mimesis Insect Cube〉(森貞人)は、本来の用途を終えたガラクタを擬態虫に再生させ、無数の擬態虫がCUBEに取り付けられた作品。「CUBEが虫かごのようにも見えますね。本来、虫は虫かごから外へ逃れようとしますが、擬態虫は入口から中に集まってきています。まるで、時代を越えて生き続けられるCUBEに入りたがっているようです」
外に出ると、〈庭のほつれ〉(三枝愛)のCUBE内に仕込んだ照明がきれいに空間を照らしていました。昼間は外光が強く、照明の光は全く感じられませんが、夜間開館に訪れた人たちだけが観られる、特別な光景でした。
「15のキューブに共通するのは、『身体のゆくえ』というテーマ。キューブを巡りながら、多様な受け止め方を観ていきましょう。もう一つの共通項である『キューブ』に、アーティストたちがどのように挑んだのかも見どころです」
ほの暗い第1展示室は、異世界や異空間を想起させる7つのキューブがそれぞれ少しずつ連鎖しながら存在しています。不可思議さが漂う展示室で最後に配されたキューブは、幻想的な〈蘇生するユニコーン〉(平野真美)。展示室に入ったときから遠くに見えていた、横たわる白い生物に近づいていきます。「作家だけの物語ではなく、観る人一人ひとりの心の中に横たわるユニコーンを向き合ってみてください」
1か月前に比べてさらに日没が遅くなり、〈庭のほつれ〉(三枝愛)の表情がまた違って見えました。
「足がメガネのツルだ!」「おろし金が虫になってる!」と口々に感想が飛び出す〈Mimesis Insect Cube〉(森貞人)。見たことがありそうでなさそうな造形に、懐かしさや驚きを覚えながら、いつまでも眺めていたくなるCUBE内。実は、親しみやすくユーモラスな作風は、CUBEの外壁にも施されています。それは、傘の骨を再利用した“クモの巣”に釣糸を張り巡らせ、ところどころ“しずく”。瞬間接着剤をほんのわずか垂らし、その粘着力で落ちそうでおちない水滴が、雨に濡れたクモの巣のよう。「クモの巣の中央には古い時計の文字盤があります。虫たちは、“永遠の時間”に捕らわれたようにも見えますね」
メンテナンスにきていた作家さんたちにご依頼し、直接、作品について説明をして頂きました。静かな強度を持つ〈移動する主体(カタツムリ)〉(耳のないマウス)、〈蘇生するユニコーン〉(平野真美)です。新しい可能性をもつ作品に、参加者からは積極的に質問も出ていました。
第1室とはガラッと違う、自然光の差し込む明るい2番目の展示室の冒頭にあるパネル。「このコンペティションの特徴である、多彩な分野の7人の審査員です」と改めて紹介。身体のゆくえについての思考、新しい表現の希求についての期待がパネルでコメントされています。参加者は、ここで少し抽象的な概念を触発され、後半の展示をみていくことになります。
「難しい」「わからない」と言われがちな現代美術。だからといって、解説や見どころを文字で説明してしまっては、作品から何かを受け取ったり感じたり考える前に、説明パネルに影響されてしまうというマイナス面もあります。AAICでは、今回のCUBE TOURのほかにも、作家が作品について話す機会や、審査員の講演会、ボランティアさんの活動、作家インタビュー動画などにより、鑑賞や作品情報のあり方についてできるだけ多くのバリエーションを設けるようにしています。観るの人に流儀にあった鑑賞スタイルが見つかれば幸いです。
(Miya.T)