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宮原嵩広インタビュー「重要なのは、物が立ち上がるその状況」

出展作品<Missing matter >

コンピューターやインターネットの発達により、人々の身体感覚は仮想的なものに変容しています。
この作品で、鑑賞者は、アスファルトを敷き詰めたキューブに裸足で入り、自らの身体で作品を感じ取ります。1960年代の前衛的な美術作品において、国内外の複数の芸術家がアスファルト使用し、それは人間社会と自然の関係を象徴する素材として捉えられました。しかし現在、その原料である化石燃料は枯渇すると言われ、象徴性も失われつつあります。本作品では、いまふたたびアスファルトを使う事で、人と物の関係を再定義しようとしています。


 

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―応募のきっかけを教えて頂けますか。
宮原:一年間カリフォルニアに滞在してて、カリフォルニアの場所が人工物と自然の関わり方が自然で、そんな感じで作品ができないかなと思っていたんです。これからどうしていこうかなってので、ちょうど募集を知って、新しく展開できると思いました。

―テーマ「身体のゆくえ」をどのように解釈しましたか。
宮原:募集要項の中にもあったんですけど、仮想現実とかインターネットとどう付き合うか、なのかな。僕が勉強していたのが彫刻だったので、その中で一番重要にしている「物が立ち上がる」とか「人が立っているその状況」が、「身体のゆくえ」に繋がると思ったので地面・床を意識した作品にできれば。

―キューブと作品の関係についてお聞かせください。
宮原:キューブ自体が独特のコンセプトがあるので、その空間性・スペース性っていうのはそれに任せて。もともとインスタレーション・空間をつくる作品を多く作ってきていたので、なるべくスペース感を崩さずにシンプルにやれたらなあと、今回の作品を考えました。

―作品の構想や制作状況をお聞かせください。
宮原:具体的に物の準備はそんなになくて、シンプルにやっていこうと。シンプルだからこそ細かいいろんな部分をどうしていこうかなと詰めている段階。

―なぜアスファルトを使っているのでしょうか?
宮原:何個か前の作品からちょっとずつアスファルトを使っていて。元々彫刻を勉強していたので、最初は木彫とか石とかを彫っていたりしたんですけど、“自分が立っている場所”を(テーマに)やっていたので、なかなか実感が湧かなかった時に、もうちょっとグっとくるというか実感を持って扱える素材にアスファルトがあったちょうどいい素材感というか、そこまで自然物でもなくかといって人工的でもない。自然と人工物のちょうど中間、ニュートラルな感じがいいなと思って最近使っています。

―仮想空間に囲まれつつある現代において、人々はどのように空間を意識し、付き合っていくのでしょうか。
宮原:仮想空間、インターネットの世界は嫌いではないですし、テクノロジーの進化みたいなのもすごく好きで、そういう方向はネガティブに捉えていないです。結局デバイスの問題で、タッチパネルだったり音声認識だったりフィジカル・身体的なコントロールをしだしているので、仮想空間が近寄ってきてるのかな。仮想現実に没頭していく勢いよりかは、あっち側が身体に寄っているイメージがあるので、それは結局人なのかなって言う感じで最近は見てます。

―今回の作品はもちろん、普段からの創作活動で大事にしていることはなんですか。
宮原:基本的に美術史の中に出て来る人達ってのは尊敬するし、系譜は意識しているんですけど、作品を作る上では、最終的には普通の生活の中で良いなと思う感覚の方を大事にしています。

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―過去作品について教えてください。
宮原:1個前の、今回出す作品と同シリーズの作品の〈missing matter-sculpture’s dogma〉っていうアスファルトで球体を作った作品が、今回出させてもらう作品と同じようなコンセプト・気持ちで作っていたものなので思い入れはあります。
「物質と彫刻 -近代のアポリアと形見なるもの」展(2013,東京藝術大学美術館陳列館)というのがあって、そこで出さしてもらった〈リキッドストーン〉っていう作品で、主に大理石とシリコンオイルを使った、大理石のフレームにマーブル模様に合わせて中をプールみたいな感じにして模様を合わせ、真ん中のポンプの装置で石の模様を動かすという作品があるんですけど、それまでの作品とその後の作品で分岐点になるな作品だったので思い入れはあります。

after-the-future-2015-cphoto-by-omata-hidehiko_s<After the future >(2015)  Photo by Omata Hidehiko

―バンタンを卒業後、東京芸大に入るまで、しばらく期間がありますね。その間は何をされていましたか。
宮原:専門学校を出た後、特殊メイクの工房でバイトをしていて、造形力が必要だなと思ったので、彫刻の技術力をつけるために美大予備校に通っていたんです。特に大学受験するつもりなく、技術だけ学んで特殊メイク業界に戻ろうと思っていたんですけど、予備校で彫刻の基礎を勉強していくうちに美術でやりたい事の方がでてきた。特殊メイクをやっていたんですけど、おどろおどろしいものが好きじゃなかったのもあって、作品というか綺麗なものが作りたかったので、美術の方が合っている、大学に行ってみようかなと思って進学しました。

―来館者へのメッセージをお願いします。
宮原:凄くシンプルな作品なので、難しく考えずに何も考えずにそこで何かを感じ取ってもらえたらいいかなと思います。

―ありがとうございました。

2016年11月6日 代々木公園にてインタビュー

聞き手:伊藤、構成:鳥羽


宮原嵩広の作品では、観る者はアスファルトが敷き詰められたCUBEに裸足で入ります。足の裏から伝わる感覚とシンプルな空間によって、意識が身体に集まり、精神や世界と呼応する場となっていくのか―。この時代だからこそ、アーティストは身体による世界認識について考察を深めようとしているのかもしれません。

(M.T)

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