5月21日、ダンサーでAAIC審査員の田中泯さんの講演会「田中泯はどのように美術に関わってきたか?」を岐阜県美術館で開催しました。会場は満席となり、急きょ会場外にも特設中継コーナーが設けられ、合わせて230人が田中泯さんの話に聞き入りました。
田中さんは、クラシックバレエ、モダンダンスなどを学んだあと、独自の舞踊を探究し、ダンサーとしての経験を活かし、映画やドラマなど映像の世界へも活動を広げています。2012年には、岐阜県が主催する円空賞を受賞しました。
聞き手は、AAIC企画委員の高橋綾子名古屋芸術大学教授。田中さんは、スポーツに取り組んでいた少年時代からダンスへの歩み、土方巽(1928~1986)の記憶、身体や表現について語る貴重な機会となりました。
AAICの「身体のゆくえ」というテーマについて、「人類は、身体をどのように扱ってきたか、始末してきたか、死をどう見極めてきたかの問題」「審査のときに、審査員それぞれが身体について議論し表明する機会があっても良かった」と投げかけました。
そして、「言葉がなかった時代、どうやってコミュニケーションをとっていたのか。踊りは人と人を通じ合わせた。今の世界には言葉があふれているけれど、口から出る言葉は、常に身体が頷く言葉であってほしい。僕たちは身体から出ていけない。自分の言葉とどう生きていきたいのか、身体がくっついていく言葉を探してください」と語りかけました。
「どんな表現であってもライブな感覚を尊重している」という田中さんは、どんな質問にも真摯に向き合い、時には切り返し、問いかけるなど、長年の鍛錬と生き方によって、即興に真実を紡ぎだす身体と言葉のあり方を見せました。
テートモダンのLive Exhibitionにおいて、中谷芙二子の霧の彫刻で、坂本龍一、高谷史郎とコラボレーションし、パフォーマンスを発表したばかりの田中さん。
約40年前(1978年)に、ルーブル装飾美術館の「日本の間展」に磯崎新・武満徹と参加し、田原桂一との写真集を発表するなどジャンルを越えた先鋭たちとの協働を展開してきました。
Live Exhibitionという言葉がヨーロッパでは力を持ち始めていると紹介し、パフォーマンスがもたらす身体のライブ感を何よりも大切にし、「美術館は、建物がすごいんじゃなくて、人が来るからすごい、出会わせてくれるからいい。それ以上でもそれ以下でもない。ライブ感こそがどんな表現にも必要。美術館は、どれくらいの間口を持って、美術館と呼ばれているのか」と問いかけました。
田中さんの気迫に、開かれた場で気づきを得る本質的な学びの場となり、来場者は「人を大切にする人と思いました。あたたかさを感じました」「ライブな感覚で話が聞けて、泯さんから/泯さんの身体から何かを受け取りました」「なんてかっこいいんだろう」「自分が言葉を使うときの身体のありよう、言葉を使ったときの身体のありよう。常に身体を意識して生活してみたい」など、それぞれの言葉と向き合い、余韻を持ち帰っていました。
(Miya.T)