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谷本真理インタビュー「空間は身体と切り離せない。動き自体が、空間を構成する」

<この部屋とダンス>
作る行為には意図が付随し、出来上がった物は作為の壁に囲まれているようで、もどかしく息苦しい。ある日、作家は、作りかけの粘土を投げつけてみた。今までにない快感があった。意図を無にする行為と、それに伴う新鮮な感覚が、息苦しさから作家を解放した。心地よい身体感覚を探す振る舞いのひとつひとつが意図を分散させ、行為が空間を変化させる。まるでダンスの軌跡のように空間ができ上がっていく。


―応募のきっかけを教えてください。
谷本:知り合いから「こういった企画があるよ」って聞いて説明会に行ったのがきっかけです。
説明会で、テーマが「身体のゆくえ」と聞いた時に何となくピンっと繋がるものがあった。今までの公募で見たことのない審査員の方々もいたのでちょっと目を引きました。

―説明会で何に一番興味を持たれましたか。
谷本:実は、遅れて行って最初のトークが聞けなくて。第2部で具体的な説明が始まり、「テーマは『身体のゆくえ』です」って言われた時に、「今私できるかも」って…、直感。

―「身体のゆくえ」というテーマで、今までやってきた事を出せそう、と?
谷本:過去にやってきて消化しきれない部分がずっと自分の中にあって、それがなぜか「今のタイミングで出せるかもしれない、やりたいな」と思いました。
今まで身体性を重視して作っていた訳ではないのですが、テーマを聞いた時に、自分に通じるもの・響いたものがあって、今までやってきたことや自分がこれからやるようなことが身体性と言っても良いんじゃないか身体性っていう言葉につなげても良いんじゃないかなって何となく思いました。

ご自身の制作のどのあたりに身体との結びつきを強く感じたのでしょうか。
谷本:空間って、その人の物を置くとかくしゃみするとか、行為の積み重ねでできていく。空間は身体と切り離せなくて、動き自体が、空間を構成する要因になっているんです。

―キューブと作品構想の関係について教えてください。
谷本:行為が空間を作っていくと普段よく考えていて。どんどん部屋が散らかっていくみたいな私はどんどん広げていったりするけど、キューブはそれを区画してくれるものという感じです。

―キューブでやってみたいことはありますか?
谷本:美術館見学会で、サンプルキューブに入ってみて「意外と狭いな、埋めようか、汚い部屋みたいに埋めてみたいな」と思った。埋まったら面白いな。私の動き廻った場所というか、遊び場所みたいな展示になると思います。

―粘土を投げようと思ったきっかけを教えてください。
谷本:粘土で壺や動物とか作っていたんですけど、でき上がってただ置くだけということに何となく不自由さを感じてて、これで完成なのかなという疑問はずっとあって。
はっきり覚えているんですけど、ある日、大学に行く時バイクに乗っている途中に「投げたら良いじゃないか」と思いついて、「早く学校に行ってやってみよう」と思って、学校に行ってワーッと作ってワッとやったら、めちゃくちゃ気持ち良くて
柔らかいものがぐちゃっとつぶれる感触とか、作った物が変形してしまう、予想外の形になる所が衝撃的で、それがきっかけです。

―初めて粘土を投げつけた時の感想は。
谷本:バンッと床に投げつけた瞬間に感触が気持ちいいし、せっかく作った物がつぶれた造形的面白みもあって。味わった事のないような気持ち良さ、開放感。粘土自体も私の感覚も解放された、そんな気持ちになりました。

―アクション・ペインティングとの関連について、考えたことはありますか?
谷本:アクション・ペインティング、言われて思ったんですけど、根本が違うのかなというのは勝手に感じていて、具体的に何が違うかというのは難しいんですけど、違いますって感じです。
過程が大事とか部分部分では共通しているのかなと思うんですけど本当をいえば、瞬間瞬間を見て欲しくて今までは結果しか見せることができなくて、それがジレンマだったんですけど、だからって映像に撮ってみせるのは簡単なんだけど、本質が違うってのがずっとあって。

―意図と偶然性のバランスの感覚について教えてください。
谷本:全ては意図があって作っているんですけど、心地いい方に流れるようにしている。工夫をしていくと、こういう風にしてみようという意図やルールが発生してくるんですけど、自分が作ったルールに縛られたり、そのルールによって作るのが悲しくなったりすると、ハッと気づいて「そんなルールなんて辞めよ」と変える、そういう方向転換を常にしてる感じ。最初の気持ちや感覚から外れていって、ただ工夫が上手な人・器用な人(それがルールに縛られていることだと思うんですけど)にならないように方向転換して、自分が気持ちいいとか無理してないなっていう状態を忘れないように作っている。
立体を作るにしろ、絵を描くにしろ、具体的にこんな形を作りたいとか描こうとかではなく、ただ色を塗りたい・ただ粘土を触りたいとか、もっと深い感触の方が発端。
偶然だけを頼りにしているわけではなくて、自分以外の力を取り入れるとうまくいくというか、意図を分散させる為の手段として偶然性と言われるものを取り入れてます。
今回、「投げます」と言っていますが、投げるかどうかも解らなくて、その時々の自分の新鮮な気持ちとか、自分に嘘をついていない感覚を大事にしたい。

―粘土という素材や技法をどのように感じていますか。
谷本:粘土を投げて変形するのも、私が投げたけど重力とかいろんな要素が変形させたみたいな、自分以外の手が加わっていることが面白くなってきた。
粘土を成形して焼くと、収縮したり色が変わったり、最初作ってた物と全然違う物になると解った時は、「ガーン嫌だ、最初の粘土のままがいいな」と思って。焼くと陶芸っぽくなる違和感があって焼いてなかったんですけど、焼きすぎると、へたる・割れる・崩れるとか、自分以外の作用・自分ができない作用、“私が触ってないけど火が触ってるみたいな焼き締まったり、変形も面白くなってきて。
場合によっては焼いたり、そのままだと、やわらく変形したり固まって脆くこわれたり、粘土のままが良かったらそのまま使ったり。それぞれの素材感に、ここがいいなと反応しながら、色々な制作方法の一つとして捉えています。

―(インタビュー会場の)個展「こわすための壺と落ちていく絵」(2016,波さがしてっから)について。
谷本:今ここで起こっている事みたいな。でき上がった絵は自分が作ったような気はあまりしない。リアリティがあるのは作業中とかクレヨンが削れている瞬間が一番リアルな感じです。

―どう見せていくか考えていないということは、落ちたりとか踏まれたりとかは…?
谷本:べつにOKです。

―べつにOKなのか、まあOKなのか。
谷本:その辺は曖昧で、どうぞ踏んでくださいという訳ではない、人が当たって倒れたら「まあなるほどね」と受け入れはするけど、推奨するわけではない。用意してやってもらうとわざとらしいし、嘘っぽい。勝手に当たって落ちたらそれはその出来事…。偶然性を誘導するのではなく、許すみたいな入ってきてもいいよみたいな。

―個展を拝見すると、絵があって、変化の時期にきているようですね。
谷本:実際、今までの作り方と変わってきてて、絵を描いているのも自分では意外。絵を展示するなんて考えたことなくて。絵を描きだしたのも些細なきっかけで。自由に何かをできるなら、きっかけは何でも良いみたいな、勝手に変わっていくからそれについて行くだけかな。

―絵を描き出すきっかけとは。
谷本:家に貼ってたドローイングが落ちてて、絵って落ちるなーと。絵なんて落ちるような物なのか、っていう。大した理由じゃないな…(笑)。

―筆致に身体性があってのびのびしています。絵を描くって芸大の授業以来? 普段から描き続けている?
谷本:趣味ではないけど、イメージスケッチとか落描きイラストとかそれくらい。大きい紙に描くとか面倒くさくてやりたいと思ったことなかったんですけど。

―色を使う喜び、身体の喜びが感じられますね。
谷本:元々色が好きなんですが、作品に現れた事が最近なく、素材の色とかそんなんばっかり…。色を使う理由が特になくて使ってなかったんですけど、クレヨンって元から色があるし、何も考えず取った色を使ったり、クレヨンって色の棒の塊でそれがどんどん塗りつぶしていくと削れていく感触が気持ちいい。こんな絵が描きたいというよりも色を塗りたくて結果的に見ると絵になってたという感じ。

―過去作品〈あたらしいあそび〉について教えてください。
谷本:〈あたらしい遊び〉は、しっかりとしたものを作っていたのを粘土を投げて自分の力以外を感じ方向転換した頃の作品。自分が投げつけて変形させるだけではなく、粘土を置いて滑っていってグチャってなるっていう、粘土が滑る滑り台みたいな道具を取り入れて作った作品です。
道具って想像以上の力を勝手に発揮してくれて、自分はきっかけを作るだけ。後は道具や現象によってどんどん広がっていく。空間を構成する時の、自然発生的な感じはいいな、と。
この個展「こわすための壺と落ちていく絵」もそうなんですけど、ここに意思をもって運ぶというよりも転がっていってそこに置き場所が決まったみたいな空間の作り方が良いなと思い始めた頃の作品です。

―今後挑戦してみたい制作方法は?
谷本:音声だけの展示がしたくて。家で制作しているといろいろ周りの音がすごい入ってきて、しゃべり声とか。それを時々録音したりしているんですけど、真似してしゃべったりして、今それが凄く気になっています。

―会期中の公開制作に期待していることをお聞かせください。
谷本:見た人の反応を直接見られること。タイミングがあれば一緒にやってもらってもいいかな。私の作業を味わってもらってもらうと、より作品に入り込めたりするのかなと思っています。

11月22日 アーティスト・ラン・スペース 波さがしてっから(京都市)にて

聞き手:伊藤、鳥羽


多くの若いアーティストが自身の感覚に合う制作方法を見つけようと模索を続けますが、谷本真理は、すでに、自身にピタリとくるやり方を発見しています。

2016年12月末には、岐阜県現代陶芸美術館(多治見市)で、美濃産の陶芸粘土を使ってワークショップ「つくって投げて!体で楽しむ陶芸粘土」を行いました。そこで使われた数種類の粘土や原土(陶土の原料となる山から掘ってきた土)が混ざった塊を使って、Art Award IN THE CUBEの制作します。陶芸が盛んな東濃地域と、谷本の掛け算は、どのような空間を生むのでしょうか。

2017年4月29日14:00~、谷本真理公開制作(岐阜県美術館)を行います。お見逃しなく。

(M.T)

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