記事


森貞人インタビュー「自分の中でこうしようと思った時にはつまらない物しかできない。作っている時に何も考えないコツがある」

<Mimesis Insect Cube>
身体の延長線上として作られた道具や、身体と触れ合うことで記憶が宿るモノ達。それらは時代の変化や利便性の追求により「ガラクタ」と呼ばれ時代の漂流物となりました。そのガラクタ達を、現実の虫に似せるのではなく、「空想のガラクタムシ」に擬態させます。〈Mimesis Insect Cube〉では、機能美から発した千の虫を丈六空間に解き放し、感性を刺激する空間にします。


―応募のきっかけを教えて頂けますか。
森:5年位前になると思うんですが、こういった物をコツコツ・コツコツと作り始めたんですね。ガラクタを組み合わせて虫みたいな物を作り始めたら、それが止まらなくなってしまって。1000点を越えた時にどうしようと。これを何とか世の中で認めてもらえたらうれしいなと思いながら、アートっていう考え方だと無理だろうなと思いながらずっと作っていたんですね。実際にコンペなどに応募しても当たらないだろうと思ったんですけど。今回の岐阜のコンペは、いろんなジャンルの審査員の人達とか丈六空間、そういったものから、何か新しいアートに対するチャレンジを認めてくれる何か新しいものを求めてるんじゃないのか、ひょっとしたら解ってもらえる、という期待感から応募しました。

 

―テーマ「身体のゆくえ」をどのように解釈しましたか。
森:ガラクタと言われる物は、一つの道具として身体の延長線上にある物だと思うんですよ。これは眼鏡の道具、これなんかはバリカンですね。最初見た時とても美しいな、とても変だなと思ったんですね。楽器だとかおもちゃは使った人の魂が中に入っている。こういった物も身体で使うための形としてとても良く出来ている。でもこれも捨てられてしまうって考えた時に、ガラクタを使って虫みたいな生き物の形にしてもう一回身体の延長線上にある表現する、と。

―なぜ“ガラクタ”で昆虫をつくろうと思ったのですか。
森:まず第一に昆虫が好き。虫っていうのは人間と真逆の進化をしているんですね。地球上で人間は自分の形を変えず周りの環境を変える。虫は周りの環境を変えずに自分の形を変えるんですね。そういう形で虫の種類っていうのは一番多いんですよ。
虫好きってのも確かにありますし、いろんな物の形を作った時に当てはめるとしたら人間でもないし、動物でもないし虫が一番合っているんだろうなと思いながら擬態という形で虫という形でいろいろ作りました。

―応募企画書に「幼いころの昆虫採集に似た感覚」とありますが、森さんにとって昆虫採集とはどのような経験でしたか。
森:昆虫採集、とても面白かったですね。特にトンボが大好きで、あの曲線を描きながら飛行する形がめちゃめちゃ美しくて、大好きでした。今も、探険に似た雰囲気で作るんです。最初からイメージしてこういう物を作ろうという形は全くないんです。何かと何かを組み合わせてこれ面白いな、新種の虫だなっていうような感じで、いつも組み合わせて遊んでいる状況で。数は限りなく出来てしまうし、自分の中でああしよう・こうしようという風に思った時はつまらない物しかできないなって

―イラストレーションでも〈空想昆虫〉という作品を制作されていますが、森さんにとって『昆虫』は以前から特別な存在だったのですか。
森:イラストレーションの仕事をやってる時も虫を描いていたし、コンピューターで物を作った時には空想上の昆虫に似てるなって、いつも新しい物を考える時には昆虫が側にいましたね。物を作る原点は「見た事のない物はきっとすばらしい」って誰が言った言葉か忘れたんですけど、それがあるものですから、新しい物を作ると同時に新しい形を発見するっていう作業が、小さい頃の新しい昆虫を採集したというドキドキ感ととても良く似ているって感じがします。

―今回の作品はもちろん、普段からの創作活動において大事にしていることは。
森:絵を書く事からコンピューター、それから今立体へと移ってしまうんですけど。一番嫌なのは慣れてしまうなんです。上手に絵が書けるようになった時に絵の面白さは半減するし、空想的な物を作って喜んでいるうちは良いんだけど、それが当たり前にコンピューターで出来ちゃった時に、正直に言えばその時点でつまんない。
これもそのうち飽きてしまうかもしれないんだけど、今はまだまだいろんな形の物が出来てくるので、まだ遊ぶ要素、創作の道具としてあると思いますね。絵を書く事もコンピューターをする事も嫌で辞めてないです。作ってて刺激が無くなっちゃうのが自分としては良くないと思っているので。これもコンピューターに取り込むかもしれませんし、また絵に書くかもしれません。いろんな物がクロスする状態を今のうちにいっぱい作っておきたいです。

―1000点以上作っても尚まだ刺激がある。
森:自分でもここまで作るとは思っていませんでした。自分の意思で作ろうと思っていたら1000点も作れない。何も考えてない状態を作り出すコツみたいなものができた自分の気持ちを自然な状態に持っていくと、物は勝手に作ってくれるんです。ですからまだまだいろんな物の形がそうさせてくれるので、もう少し遊んでみたいと思っています。

―過去作品について
森:一番最初に認めてもらったのは、「ハート」のイラストレーション。その頃写真そっくりに、リアルなイラストレーションがブームで、ハートの形に少し崩して描いてみたらそれが評判になって。それからトリックアートみたいなものに惹かれていって、コンピューターに入って。小さい頃、人が宇宙人の話をしてる時に、「絶対に宇宙人よりも宇宙虫の方が可能性がある」と思ってたんですよ。コンピューターでも、それを思い出して宇宙虫を作っちゃえって想像上の虫もコンピューターでいっぱい作ってしまいましたね。その時代・時代で、仕事と創作が一緒の状態で進んでこれたのは一番良かったことかな。一時は広告の世界の人が目につけてくれて仕事になったし、今アートの人達が認めてくれて入選になったことも非常にうれしいです。

―イラストレーターとしての経歴が長いですが、オブジェの創作活動をはじめたきっかけは?
森:ホント偶然。最初、実家にあった真空管を見た時に綺麗な物だなって印象があって。これは眼鏡の枠なんですけど、眼鏡の枠をくっ付けて虫みたいな物を作って喜んでいたんですね。そっからいろいろな物が手に入るようになって、夏なんかは朝散歩する時に落ちていたクマゼミの羽根をくっつけてみて遊んだり、仕事でもなく趣味でしたね。それが楽しくてしょうがなかった。

―イラストレーター、デザイナーの時の感覚と、虫を作ってる時の感覚の違い、似ている感覚はありますか。
森:イラストレーションを描いてる時から人に頼まれて描いている仕事があまりなくて、「こういう物を面白いと思うんですけど、どうですか」っていう風に提案していたし、コンピューターで作った作品も「これ面白いでしょ」っていう形で出していた。いつも自分が世の中に対して気になったことを創作して誰かに見てもらうことを繰り返している。これも延長線上で同じ様な方法です。いままでのやつは、ここまで面白くなかったですけどね(笑)。

―偶然にも、名古屋造形大学でデザインを教えていたときの受講生(平野真美さん)が、入選していました。
森:平野さんね。美術館で挨拶してくれて。すぐにわかったんですよ。この子だって。正直ビックリですね。こんな場所にもうたどり着いているのかっていう驚きが一番大きかったです。今度は僕の作品を平野さんに見てねって言いたいし、平野さんの作品も見せて欲しいな。きっとワクワク・ドキドキしながら作っているんだろうなって思うんだけど。「良いよね、楽しくって」っていう感じですね。

―キューブと作品構想の関係についてお聞かせください。
森:キューブを、完全に虫かごと捉えてしまって。古い時代の漂流物という言い方をするんですけど、思い出や魂、人間の手だとかそういう物から延長線上にある道具達をもう一回見直し、「身体のゆくえ」っていうテーマの一つのアプローチにはなってくれるのかなって気がするんです。出来るだけ楽しい状態で面白いよね・良いよね・こんなのあったよねっていう形で残ってくれれば蘇生したガラクタ達も喜ぶと思うんで。明日もまた作ります。

―来館者へのメッセージをお願いします
森:ここにあるのは単なるガラクタなんです。ガラクタも想像という魔法を使うとこんなに面白い物がいっぱいできますよ。大人から子供まで喜んで見てもらえると思うし、楽しんで見て頂ければ作った甲斐があります。

2016年11月11日 名古屋市内のアトリエにて

聞き手:伊藤、鳥羽


入選した15組のなかで最年長。持ち前の好奇心と創作意欲で次々と制作を続けています。作家の生き方や経験から生み出された“ガラクタムシ”たちは、アートの世界に、新たな価値観の棲息地を広げていくかのようでした。
(M.T)

作家紹介動画はこちら