柴山さんは、「木の積層の柱や中央部のくぼみの配置の発想源は、尾形光琳の〈紅白梅図屏風〉。左右対照で、中央に水の流れがある光琳の独創的な構図を立体化してみたかった」と熱く語りました。作ることが大好きなだけに、「口下手ですから」と自己紹介しながらも、自身の遍歴、制作の工夫や苦労など、話し出すと止まらない柴山さんでした。
“ガラクタ”に触発されてガラクタムシを創りだす森さん。CUBEでの空間展示について、「日比野館長の公開講評会のときに、『もっと作れ』とけしかけられ(笑)、虫を増やしました!」。イラストレーターという職業で鍛えた構成力からあえて離れ、「作り出すととまらないんです」という制作志向と合致する展示スタイルを見出したようです。
等身大の3体の人形が、壁や床を這い、手遊びのカタツムリの形の指だけが動いている作品は、プログラムや機械的具合、そして物自体の変化などで、展示期間中、調整を続けました。作品に向き合い続けるなか、“人形が出ていくのか留まるのか?乗り越えてくるのか?”を考えるイキイキとした来場者の反応も直に受けました。「アイデアの段階から、この作品を2年以上扱っているんですが、何回もメンテナンスに来て、子どもたちが驚いたり人形の真似をしているのをみて、応募のときと今では、自分たち自身の感じ方が変わってきている。『記号が本体を引っ張っている』んだけど、それをもっと明るく捉えるようになりました」。
アスファルト敷き詰めた白と黒の空間には装飾やコンセプトを媒介するヒントがありません。コンペティションにおいて、“分かりやすさ”から距離を置いたという表現に徹したという点でも、潔いと言えるでしょう。美術館でアスファルトという素材が珍しく、「熱を加えなくても固まるのですか」と鑑賞者は興味深そうでした。
「80年代から制作をしていて、そのころは、土という素材を前面に出した大きなオブジェなんかを作っていた。その反動で、水道の蛇口や犬やネズミなどの生き物を陶でつくって、できるだけ無機質でシュールな世界を作っています」。工業製品との見分けがほとんどつかないくらいのマットな漆黒で、「陶の表現」を追求している三木さん。張り巡らせたパイプと、さりげなくも効果的な照明のなかに配置されたオブジェは、人の体内や都市の内部を暗示しています。
来場者アンケートの「印象に残った作品」でも常に上位に挙げられており、質問もたくさん出ました。「ユニコーンではない生物にしようと思いませんでしたか?」という質問には、「なぜか心に浮かんだのがユニコーンだったんです。龍や人魚だと夢や希望の象徴とは少し違う。SFや魔法の映画や本が好きで、そのなかにユニコーンがでてきていたのもあったと思います」。「夢の回復とともに、ユニコーンが立ち上がろうとしたり、ポーズを変えることはありませんか?」という質問には、「自分にとって、横たわっている状態というのは、決して否定的な状況ではなくて。夢や希望も、元気溌剌なものではなく、大事に守っていかなければならないというイメージです」と一つひとつ丁寧に答えていました。
「記憶、忘却などをテーマにフレスコという西洋の個展技法で制作しています。カーテンやシーツ、包まれるものなど、幕を描いて、光や空気を表現しています」。平面作品によるキューブの空間構成課題にとりくんだ松本さんの制作は、きわめて興味深い表現です。AAIC2020に応募する平面作家へのバトンとなることでしょう。
小学生が見学にきたときに、紙とキューブの隙間から出てこようとしてズボンのポケットボタンがひっかかり、和紙が破れてしまいました。その破れを細かい針目で補修した中村さん。「視線の定まりどころができて、かえってよくなりました。そういう変化もおもしろかったなあと思います」
「文学者の堀江敏幸さんが、『(ドローイングが)変化していくと、いつかヒエログリフのような文字になるのかもしれない』と言っていましたよ」と伝えられると、「それはなぜですか?」と不思議そうな堀川さんでした。
ロボットの顔(iPad)に映し出されているのは、作家支援で協力した文化関係部署の県職員。争議権が制限されている公務員が、ロボットを使って代替的に行う、デモ行為の可能性が暗示されているようでした(作家はそこまで意図はしていなかったのですが)。
作品の一部である突き出ていた棒の安全対策対応を検討していたとき、棒を短く切ったりヤスリをかけたり提案があるかと予想していたところ、緑色の柔らかい粘土を棒の端につけて「バランスが変わらないように」した谷本さん。「中央部分のオブジェの隙間を子どもが通ったり壺が落ちたりして、空間がどんどん変化していきました。床も粘土が散らばって、嬉しい」。
「公募展は、『こんな作品が評価されやすい』などそれぞれのコンペで傾向があったりするけれど、ミルココが大賞をとって、第2回の傾向が全く見えなくなりました」という学芸員のコメントに、「それは一番うれしい感想!(笑)」とメンバー一同盛り上がっていました。
屋外のインスタレーションは初めての経験の三枝さん。「キューブの外側が風雨で色が変わってきたり、葉っぱがキューブのなかに吹き込まれたり。そういうキューブだけの変化じゃなくて、3月の搬入時は灰色の風景のなかに真新しい木材のキューブがあったのが、今は、こんなに青空で芝生が緑で、木が茂っていて、そういう環境のなかにキューブがある景色の変化も含めて〈庭のほつれ〉」と、経験を昇華する感覚の良さを見せました。
(M.T)