記事


制作支援=岐阜大学応用生物科学部へ≪蘇生するユニコーン≫

Art Award IN THE CUBE 2017 では、作家の制作をさまざまな面から支援しています。

仮死状態のユニコーンを実在させる作品《蘇生するユニコーン》を制作中の平野真美さん。骨格、内臓、筋肉、皮膚など一つひとつを自らの手で創るというチャレンジに取り組んでいる平野さんから寄せられたのは、「馬や畜産の専門知識を有する大学や機関からのアドバイスがほしい」というご相談でした。

10月のある日、平野さんが岐阜を訪れました。岐阜大学で臨床獣医学をご専門とする高須正規准教授のご案内で、馬の牧場や獣医学科を見学するためです。実は、獣医学系学科を設置している大学は少なく、岐阜大学は、東海・北陸圏で獣医学科が設置されている唯一の大学なのです。

科学者とアーティストの対話

平野さんから高須先生への質問は、「瀕死状態のユニコーンがいたとして、先生でしたらどんな治療を行いますか?」「先生が思う“生きている”の判断基準は? どのような状態にあれば、その生物は“生きている”と言えると思いますか?」など、哲学的な問いも含んでいました。臨床獣医師としてのご経験もあり、家畜やペットなど、人間と関わる動物、すなわち「社会的な生物としての動物」の生命を考る高須先生にとって、たいへん興味深い問いだったとのこと。「常に考えていることだが、学生とは、ふだんはこういう会話はしない」とおっしゃっていました。

thoroughbred

牧場に向かうまでの車中の二人の対話は、科学・社会学・芸術などの異なった文化や思考が結びつき、科学者と作家が互いの領域の新たな可能性に気づく時間となったようです。平野さんは、「先生とお話しした事は、私やユニコーンの“栄養”になるような話ばかり。これから制作を進めていくうえで大事なキーワードになりました」と、制作の次の段階に向け、新たな視点を獲得したようでした。

愛知木曽馬牧場に見学へ

馬を撫でる

高須准教授からの、「まず、実際の馬を見た方が良いでしょう」というアドバイスで、愛知木曽馬牧場に見学へ。緑豊かな環境で、愛情たっぷりに育てられた馬たちが伸び伸び暮らしていました。

餌やり

引き馬や餌やり、さらには放牧をしている馬場に入らせていただくなど貴重な体験をした平野さん。「馬に触るのは5歳の時以来。作家として、作品を作っていくうえで欠かせないような経験が出来ました」と、心も体もしっかり馬に向き合って受け止めていました。木曽馬を大切に育成する牧場主さんにも、それは充分に伝わっていたようです。

 

応用生物学部で骨格標本や受精卵などを観察

その後、大学に戻り、専門書や骨格標本を見せていただきました。平野さんが写真を持参した制作中の骨格は、解剖学の先生が感嘆するほどの出来。独学で学んだ平野さん、日頃の疑問を解消できる機会!と、高度な質問を繰り出します。「指節種子骨(しせつしゅしこつ)は何のためにある骨ですか?」など専門用語を難なく使いこなす平野さんに、解剖学の先生もしばし真剣に応答。

手術台

大型動物用の手術台なども見せて頂き、盛りだくさんの一日が終了しました。「完成したユニコーンの前で、先生たちに再会したいです!」という平野さんの澄んだまなざしに、関わった人たちは皆、応援したいという気持ちを抱いたようです。

Art Award IN THE CUBE 2017では、引き続き、作家支援を続けていきます。

(M.T)