記事


制作支援=佐野誠氏×耳のないマウス〈移動する主体〉

Art Award IN THE CUBE 2017 では、作家の制作をさまざまな面から支援しています。

爽やかな秋空の下国立国際美術館(大阪)は、「THE PLAY since 1967 まだ見ぬ流れの彼方へ」オープニング日を迎え、華やいだ空気に包まれていました。

museum

美術家集団 プレイ の活動の全貌を紹介する美術館初個展の開幕に美術関係者たちが集うなか、Art Award IN THE CUBE 2017 テクニカルアドバイザーの佐野誠氏の姿もありました。同展で、大がかりな作品の再構築や仮設壁の施工を手掛けていらっしゃったのです。

そんな大仕事を終えたばかりの佐野さんに会うため、「耳のないマウス」のメンバー松田朕佳さんが長野県から駆けつけました。さっそく、国立国際美術館隣のカフェでミーティングが始まりました。

「耳のないマウス」が制作する〈移動する主体(カタツムリ)〉は、手遊びのカタツムリの形の触角を表す指とそれに続く動かない身体が、現実世界の差延を表象する作品。制作上で直面している課題は、大きく二つありました。

一点目は、“手”の素材について。樹脂や素焼きの陶などで試作を重ねましたが、どうしても関節部の処理がうまくいかず、行き詰っていたのです。佐野さんからは、シリコン素材が提案され、素材会社の紹介や構造のヒントなどのお話があり、ファクトリーチームからは、専門の造形業者を紹介できることも示されました。しかし、佐野さんが伝えたかったのは制作実務のノウハウではなく、別のことだったのです。
 hands_plaster
「プロに頼むのは簡単。でもそれでいい?  苦労を重ねて、そのあげくにハイレベルなプロに助言・助力を求めるのは良い。まず、やってみて失敗や工夫をしようよ」「職人は技術を教えないし、言語化もできない。自分でやって、目を皿のようにして観察し考えているから理解できるんだよ」

二点目の相談は、キューブの中をぐるぐる這い廻る人間の動きを維持させておく方法でした。トラッキングによる自己位置推定方法か、まったく別の軌道補正の仕組みがあるのか。
at_graf
動きの自動軌道補正については、佐野さん・松田さん・学芸員の3人で話をするうちに、「円状に旋回するのではなく、壁にぶつかりそうになったら迂回する動きにしては」など、カメラとコンピュータープログラムによる当初の制御プランから、別の方法で補正をするアイデアも出てきました。佐野さんからは、「トップの作家は、目が覚めている間中、周りを観察し、アンテナを立て、何か作品に使えるものはないか考えている」という、第一線の作家との付き合いのなかから出た言葉も。

ミーティングを通して、豊富な経験と専門知を持つ佐野さんの話に、作家としてユニークな感性をもつ松田さん触発されているのが伝わってきました。
「耳のないマウス」の制作は、これから、アイデアや試作の段階から、作品を実存させる重要な段階に入っていきます。ミーティングを受けて何かを掴んだ松田さんが、グループのもとに帰って、メンバーと協働し、どのような方向性を見出していくのでしょうか。もう一歩踏み込んだ作品制作、豊かな方法論を期待しています。

Art Award IN THE CUBE 2017では、引き続き、作家支援を続けていきます。
(M.T)