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柴山豊尚インタビュー「キューブは無限に広がっていく過去・現在・未来の空間」

<ニョッキ(如木)2017>
この世に存在するすべてのものは、留まることなく常に移り変わり、身体は精神を伴って初めて成り立つ。そして、その無限に広がる一瞬を、木の積層を鏡に映すことで表現し、地球や人類の過去から現在を感じ、未来に思いをめぐらす空間を試みます。


―応募のきっかけを教えてください。
柴山:ずっと制作を続けてきているんですが、発表する機会も無い状態でこの年になってしまって、一回どこかで発表したいなといろいろ考えておりまして、その時に岐阜県でこれだけのキューブという展覧会がある、是非とも出品させて頂きたいと思って応募しました。

―「岐阜でこれだけの展覧会がある」という部分を具体的に教えていただけますか。
柴山:今までの自分の考え方は美術という限られた世界だったんですけどいろんなジャンル・いろんな考え方をもった方が集まれる展覧会ということです。

―テーマ「身体のゆくえ」をどのように解釈しましたか。
柴山:最初は「身体のゆくえ」をどう捉えて良いか解らなかったのですが、人間である以上、身体だけではなくて心や精神も伴って初めて成り立つものではないか、今の自分はどうなんだろうと考えた。今までの自分を振り返ってみた時にあっという間に過ぎてしまっている。これからどういう風に流れていくかもよく解らない状態。それを表現し、その場に立った自分がどういう感情を持ちどんな思いになれるかいうことを楽しみに制作しています。
また、「身体」は人間だけではなくて物事・万物全てのものと捉え、現在・過去・未来にどういう流れができるのかを表現したくて。

―キューブと作品構想の関係について教えてください。
柴山:単体の作品は作ってきているんですけど、今回キューブの空間が非常に大きくて、非常に考えました。琳派に興味があり、俵屋宗達の風神雷神図や尾形光琳の紅白梅図屏風というような平面の構図を立体として表現出来たらと思いました。
私は岐阜県で生まれ育ったんですけど、岐阜のすばらしさをとても感じています。それを作品の中にも入れて、長良川を中心にした川や山の様子を表現出来たらと、そんな思いをもって工作してます。

―今回の作家の中で唯一の岐阜県在住ですものね。琳派、風神雷神図や紅白梅図屏風が好きで、構図的なインスピレーションにされたとのこと。それは左右一対とその間に広がる空間のようなものでしょうか?

柴山:琳派は、構図として真ん中が開けている空間で、普通は考えにくい。そこに大事な部分があって、自分が実際作ってそこに入ってみるとどうなのかというのを思いながら制作しています。

―その空間に何を感じていますか。
柴山:絵画的に言うと両側に配置してあること自体が、自分の今までの思いと違った世界。そして奥行きも感じられる。絵画の中を実際の立体として表現したときに、奥行きがどういう風に検証できるかやってみたい課題、と感じとっています。

―それをやってみたいと思ったのはいつ頃からですか。
柴山:教員もやっていたので、子供に色々教えたりする中で、20年前くらいですね。その空間性が類をみない、世界に通用するようなものじゃないかなと思っていました。

―作品コンセプトに書かれていた「永久不変なものではなくその一瞬を表現」とは?
柴山:過去から振り返って未来への空間が出来上がれば良い。キューブの中は閉じられた空間でありながら無限に広がっていく様な空間を作りだしたいと考え、鏡と思いました。それが一番のことです。

作品化するにあたって全面鏡張りというプランの実現化が困難でした。
柴山:広がりを作ろうと思った場合には鏡がどうしても必要だということで、できれば三面に張りたいと進めています。

 

―創作活動において大切にしていることは?
柴山:40年位、木を素材として制作してきています。その前は金属中心だったんですが、木は生き物で、木の生きてる姿を大事にしたい、その木をできるだけ活かした制作をしたいとずっと続けてきています。

―過去作品との共通点、異なる点はありますか。
柴山:今回は、空間全てのものを木で表現出来るという点が少し違います。

―空間表現になったことによって、気をつけていることがありますか。
柴山:今まで、作品は物として展示する事が多かったんですけど。今回、空間自体そのものが作品であって、それに合わせた木の空間を作るということが一番大変だった。

―最初は金属を素材とし、木を扱うようになってから40年位。積層材を扱うようになったのはいつ位ですか?
柴山:それまで木をそのまま表現したいと思っていたんです。積層素材は、丸太を大根の桂剥きのように回転させて削って剥いた物を重ね合わせて出来ている。今までの自分の活かし方と全然違い、これは面白いと興味を持ち表現に結びつけました。

―今の制作は、積層を更に重ねて強調しているのですね。
柴山:サイズも無限にできるし、自分の思うようにも出来るそれは木の持つ素材とは違うかもしれないですけど、木を活かしていけて良いかなと思います。

―(以前作っていたような)丸太から掘り出すのだと、その丸太のサイズに固定される?
柴山:(積層は)どこまでも広げていける。どこまでも積み上げていける。

―「木を活かす」思いについて詳しく教えて下さい。
柴山:若い頃は木を裂くという表現をしてまして、1本の木でもクサビを打って、上からクサビを打てば下まで綺麗に分かれるんです。昔の大工さんもそうしていて、木の持つ力をそのまま活かしていける表現をしてきたつもりです。

―原木に別の力をかけ木を裂くのと、桂剥きにして圧縮した集積材の違いとは。
柴山:今までは木そのものの活かし方をしたいと思っていたんだけど、新しい見方の中で木を活かせるのではないか、それが積層になっていたことは、「木そのものがどういう風に活きてくるか」という意味合いでは同じ。
桂剥きは、木がどこまでも広げられた状態、それが1枚1枚重なってそこでちゃんと形にしてくれるそういう意味では活かすということ。

―来館者へのメッセージをお願いします。
柴山:今制作途中で、実際に出来上がった時に自分がどう感じるか解らない状況です。私自身、完成したキューブの中に入って何が感じられるか今とても楽しみしています。来て頂いた方、見て頂いた方も実際にキューブの中に入って、自分自身を見つめられれば良いかなと思います。

11月23日 岐阜県内のアトリエにて

聞き手:伊藤、鳥羽


過去・現在・未来は、レイヤーのように存在しているのではありません。60代の作家の内省と想像から生まれた構想は、鏡を使うことで、自身や木の積層の多面的な視野を物理的に身体の周りに起こさせようというものです。これまでオブジェを制作してきた作家にとって、初めてとなる空間表現がどのように結実するのか、まず作家自身が新たな挑戦を楽しみにしています。

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