群馬県高崎市で開催されている現代アートイベント「アートプロジェクト高崎2018」(10.21に終了)に出品中の三枝 愛さん(AAIC2017入選作家)にお話を伺いました。
Q AAIC2017での《庭のほつれ》は、2014年から続いている三枝さんのインスタレーションのシリーズの一つになるわけですが、その出発点は?
2011年の東日本大震災です。椎茸農家である実家の風景が震災によって変わってしまった現実を突きつけられ、人間が感じる時間とは別の、「もの」や環境に流れる時間があることを改めて実感しました。その二つの時間のギャップに折り合いをつけていきたい。「もの」に流れる時間を尊重していきたい。そう考え始めたことがきっかけだと思います。
Q AAIC2017は、《庭のほつれ》シリーズのちょうど10回目の展示だそうですね。
震災後に使うことのなくなった椎茸栽培の道具や、壊れた物を庭から拾い集め、蝋や包帯で元に戻そうとしたものを展示したのが最初で、それをずっと続けてきたのですが、AAIC2017では、これまで積極的に触れようとしてこなかった椎茸の原木を展示することにチャレンジしました。AAIC2017の全体テーマだった「身体のゆくえ」を強く意識して、原木を一種の身体に見立てた結果と言えます。
Q 三枝さんにとって、身体というテーマが魅力的だったということですね。
そうですね。身体とともに、「ゆくえ」についても常に考えていきたいと思っています。それと審査員の皆さんの顔ぶれも魅力的でした。私は映画を観たり本を読んだりするのは苦手なのですが、高校生の時に鷲田さんの本に興味を持ち、何とか最後まで読み切り、大きな影響を受けました。その鷲田さんが審査員なら「ぜひ応募したい」と思いました。
また、AAIC2017の規定であるキューブも自分の作品の一部と捉えることを意識しました。屋外で展示する上で、時間による太陽の移動や影の変化も意識して構成しました。
Q AAIC2017以降の三枝さんについて教えてください。
AAIC2017を終えて強く思うようになったのは、「もの」そのものではなく、「ものに込められた人の意志」をのこしていきたいということです。
いま、京都の文化財に関わる仕事をしていて、土器や瓦などの埋蔵文化財に触れる機会が多くあります。土を掘り起こすと、人に捨てられたいろいろなものがでてきます。眠っていたものが、まるで事故にあったかのように急に人の時間に引き戻される。そういった使命を終えた「もの」に対し、作家として、現代の時間とどんな関係を結ぶことができるのか。そのことをずっと考えています。
2018年10月21日 「アートプロジェクト高崎2018」(群馬県高崎市)にて
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「身体のゆくえ」と《庭のほつれ》シリーズが非常に良い形で出合った印象を受ける三枝さん。「ゆくえ」に軸足を置き思考することによって、彼女の関心は新たな地平に向かっているようです。失われた時間とともに意思が希薄となった「もの」たちに、どんな命が吹き込まれるのでしょうか。早く見たいと思いました。