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2018.12.17

【記事】AAIC2017入選作家(平野真美)インタビュー

岐阜県美術館が主催する「アーティスト・イン・ミュージアム(AiM)」。その一環として、2018年の夏、岐阜盲学校を舞台に、生徒とともに作品を制作、展示した平野真美さん(AAIC2017年 入選作家)にお話を伺いました。

 

Q AAIC2017入選作品の「蘇生するユニコーン」の前にも、同様の生命維持装置を付けた白い犬の作品を制作されていますが、作品の原点は?

愛犬の存在をモチーフに制作した「保存と再現」という作品です。愛犬は脊髄の病気になり4年間、緩和治療を続けました。死期が迫ってもどうしても愛犬と離れがたく、寝ている愛犬のサイズを測り、骨格や毛皮を制作によって再現し、制作した肺に空気を送り呼吸をさせるという作品を制作しました。2013年の修了制作作品です。

その後愛犬の病態が悪化し、悲しみを抱えて人生とどう折り合いをつけて生きていけばいいかわからない時期がありました。前向きな気持ちには一切なれない、軽薄ですが、夢や希望などが抱けない状態。自分の中で何かが死んでいる、あるいは瀕死の状態だと感じ、それは一体何だろうと思った時、ユニコーンが浮かびました。

Q ユニコーンが象徴するものは何ですか?

ユニコーンは純真さや夢や希望の象徴だと思います。

もし自分の純真さや夢や希望が息絶えているならば、その象徴であるユニコーンを殺したのは私自身だと考えました。自分の脳内に屍となったユニコーンが横たわっているとして、それを見て見ぬ振りをして生きていくか。夢や希望を持たず生きるか、それとも、自分が唯一できる「制作」によって、なんとか蘇生できないか。そこで、まずユニコーンを骨格や内臓から作って実在させることにしました。実在させ、制作した肺に空気を送り、血液を循環させ蘇生を試みることで、実は私もユニコーンから蘇生行為を受けているような相互関係にあると感じています。

 

Q AAIC2017に応募した動機は?

「蘇生するユニコーン」自体は、公募が始まるもっと前の、2014年の冬から制作を始めていました。最初に頭蓋骨と角を作り始め、上半身の骨格が出来た頃、AAICの公募を知りました。私の場合コンペに合わせて企画を練るということができないのですが、もう既に決まっていた「蘇生するユニコーン」の方向性と、AAIC2017のテーマ「身体のゆくえ」とは相性がいいと思い応募しました。

 

Q AAIC展示後の創作に変化はありましたか? 

展示前まで作品と密接に関わっていたのに展示中は作品に手をつけられず、すごく作品と距離を感じました。第三者のような目線で作品を見ることができ、この先どこをどうするか考えることができました。会期終了後は、コンペ前のユニコーンと私の本来の関係に戻し、制作を再開しました。

「蘇生するユニコーン」はほぼライフワークのようになっていて、今後も完成を先延ばしにして作り続けていく作品です。いろんな身体の部位を作り直したり、新たに作ることは、ユニコーン自身が新陳代謝を繰り返していくようで、そのたびに「蘇生」している感覚があります。そうすると、全ての作業が終わり完成した瞬間、ユニコーンの物としての寿命が決まり、死を待つばかりになるような気がしていて、それはなんだか嫌なので避けています。

Q 素材なども変わりましたか?

今現在ユニコーンは、AAIC2017の時と比べて骨格以外は全て違っています。今の制作のメインはユニコーンとは違う作品ですが、他の作品の制作の傍、今後もユニコーンは脇に置いて少しずつ手を加えていきます。

作り直し続けることで、私自身の技術力も少しずつ上がり、その時作れる物の精度も、方向性も変わります。その都度、ユニコーンも新陳代謝を繰り返し、蘇生します。私と一緒に変わっていくユニコーンを、またどこかで観てもらえたらと思います。

岐阜盲学校の生徒と一緒に制作した作品

 

2018年10月27日 岐阜県立岐阜盲学校(岐阜市)にて

 

本来架空の生き物であるユニコーン。自らの技術力を高め、リメイクを重ねる作品からは、息遣いを感じます。ともに新陳代謝を繰り返し、自らも蘇生し続ける平野さん。作品と密着し、同化する様子は優しい共依存関係すら思わせます。今後のさらなるリメイクにより、どう作品が変遷するか、やがて、どう着地するのか楽しみです。