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2018.12.21

【記事】AAIC2017入選作家(耳のないマウス)インタビュー

長野県信濃町を拠点に作家活動を行なう松田朕佳さんのもとへ、東京から3人の仲間が・・・。それぞれの個性が合わさり、心地よい関係性を生み出している「耳のないマウス」の皆さんにお話を伺いました。

 

Q 皆さんは2015年のアート系ハッカソンイベント「3331 α Art Hack Day 2015」で、はじめて出会うわけですが、そのグループが今も続いている要因は何だと思われますか?

 

石射/僕はWEB関係の会社で働いていますが、自らのスキルやテクノロジーをWEBではなく別のところで使えるのではと考え、自分と最も縁遠そうな何かをやってみたかった。そんな時、アートハッカソンを知り、参加してみようと。石倉さん(プランナー)も雨宮さん(デザイナー/ファシリテーター)も、普段はアートとは違う所にいるのですが、たまたま、その時の作品が評価され、その後、新たな作品発表の機会を得て、さらにAAIC2017に応募してみようと自然につながっていきました。

雨宮/私の仕事は、企業やコミュニティなどがクリエイティブに事を起こすのを支援するというもので、そこに費やす時間に比べて「耳のないマウス」にかける時間は少ないのですが、投入する熱量というか、好奇心の持続度、おもしろいと感じることなど、数値化できないインパクトが仕事と同じ位ありますね。だから自然にここまで来たと。

石倉/何か次から次へと進んでいき、でも考える時間もしっかりありましたし、3年だけどとても濃い時間でした。会うたびに、知らないことや新たな発見がある、それも一つの要因かもしれません。

 

Q 松田さんは、アーティストとして「耳のないマウス」の軸になっていると思いますが、個人の作家活動とグループでの活動で、何か違いはありますか。

 

松田/作家としてのスタンスは、どちらもまったく一緒です。ただ、個人でやるときは、失敗しても自分が引き受ければ良いので、エクササイズをやるように気楽な感じでやっています。耳のないマウスの時は、仕事をしている3人に対してすごく責任を持ちます。そのためかどうか、グループでやるようになって、作品の意図が以前よりもっと伝わるようになったと感じています。

 

Q アートに対する皆さんの考え方とかスタンス、アプローチなどをもう少しお聞かせいただけますか。

 

雨宮/普段の仕事は、デザインとファシリテーションによってクライアント等の課題を解決しようという、つまり相手の変化を手助けしているわけですが、それも限界があるなと。だからアートは、自分を喜ばせるものにしよう、自分らしく生きていくことをアートの源泉にしようと取り組んでいます。

 

松田/いずれ地球人は火星に住むようになる。その時、地球は今のように住める環境ではなくなっているわけで、今日みたいに、みんなとお茶を飲んだりというこの状況は奇跡かもしれない。(かけがえのない)特殊な瞬間だと。現代アートの歴史はまだ短い。だからと言っていつまでも続くものではなく、残って行かないかもしれません。でも、今はある。今の今は、必要があって存在している…。だから、今という瞬間を大切にし、取り組みたいと思っています。多くの人の目からうろこが落ちるようなことをしたいと思っています。

石倉/アートを、大きな宇宙から入る松田さんと、僕とは決定的に違いますね。僕はもっと近いところで、耳のないマウスの作品を見た鑑賞者の反応を見たいと思っています。感動でも、怒りでも、観た人の心に変化を起こせたら…。自分自身も、3人と出会って、ものの見方が大きく変わりましたが、それを他の人にどう味わってもらえるか、作品づくりを通して、見続けていきたいですね。

 

石射/耳のないマウスは、異業種の集まりだから良いんだろうと思います。 同業者だとハイコンテクストで話せることを、異業種だと相手に理解してもらうため、視点をずらしながら話をしなければいけない。その分、新しい自分の発見や見つめ直しにもつながると思っています。

 

石倉/広告表現とアートは近いものがあって、広告やコピーの定義は本当に人それぞれですし、僕が良いと思う表現が悪いと評価されたり、逆の場合もある。仕事で何でだろうと悩んだ時期もありました。でも、アートはもっと評価や定義が分かれますよね。アートを通じて、人それぞれの評価を面白いと受け入れられるようになり、アートに救われています。

 

雨宮/誰もが自分勝手な解釈をしていますが、ひょっとしたらそれは事実ではなく幻想かもしれない。こうあるべきというのも、好き嫌いも、本当にそう思っているのか、自分じゃないもの(マジョリティ、エスタブリッシュメントなど)に何か作られているような錯覚に陥ることもあります。解釈ではなく、そのまま受け入れられるかどうか。良いとか悪いとかではなく、そのものを純粋に受け止めて交換していきたいと思っています。

 

松田/実は私の周りには、しっかり会社勤めしている人があまりいないので(笑)、社会できちんと働いているこの3人と一緒にいるといろんなことに気づかされます。社会性を与えてもらっていると言っていいかも。耳のないマウスは、作品を通じ社会に何か貢献できるかもと強く思えるようになりました。

2018年11月24日 長野県上水内郡信濃町

 

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4人で話し込むことに時間を費やす「耳のないマウス」の皆さん。互いの考え方を受け止め、価値観を交換することの難しさを共有している彼らだからこそ、これからもアートを媒介としたコミュニケーションの精度は高まっていくものと思います。グループ・ミーティングは、この後、本格化するようですが、果たしてテーマは何だったのでしょう? 「身体のゆくえ」に対する創作の「記憶」が、新たな作品創作のきっかけになることを期待しながら、信州の山々を後にしました。