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2022.03.17

AAIC2023オンライントークイベント(VOL.3/福岡)を公開します

2月12日(土)に福岡市で開催を予定していた「トークイベント・公募説明会」が新型コロナウイルス感染症拡大防止のため中止となったことから、オンラインによるトークイベントを行いましたので、その内容を公開します。

四方幸子さん(AAIC2023審査員)と、(AAIC企画委員)が対談を行い、AAICの特徴や今回の公募テーマなどについて、お話しいただきました。

また、四方さん、北川純さん(AAIC2020入選作家(藤森照信賞))から、応募者の皆さんへのメッセージ動画も公開します。

四方幸子さん(2023審査員)による応募者へのメッセージ https://youtu.be/Mc3hElh6WZ4

北川純さん(2020入選作家)による応募者へのメッセージ https://youtu.be/nIB2OLBCCdQ

また、四方さんと、河西栄二さん・衣笠文彦さん(AAIC企画委員)が対談を行い、AAICの特徴や今回の公募テーマなどについて、お話しいただきました。

 

Art Award IN THE CUBE2023「CROSS TAIK」四方審査員×企画委員

衣笠委員:

AAICの過去2回の実績から、AAICという公募展をどのように見ていらっしゃるのか、どういうことを期待されているのか、お話しいただけますか。

四方審査員:

これまでの公募テーマに、すべて「ゆくえ」がついているんですけど、AAIC自体が「美術や未来のゆくえ」とか「社会のゆくえ」っていうのを目指しているのかなと思いました。そのために、審査員がかなり多様で、先見的な方々が多いと思います。それぞれの分野で深く活動していらっしゃるだけでなく、他の分野との横断を実践していて、既存のものにこだわらない方、自分たちで新しい世界観とか表現を作り上げている方、それらを理解できる人が審査員になっているような気がします。

四方幸子審査員

四方幸子審査員

そして、過去の入賞作品を見ても幅広いジャンルの方々が応募されていて、使われるメディウムも全く違いますしキューブの使い方も全く違うんですよね。

キューブという均質的な空間をどのように使うかが自由なので、本当に多様なものが入っている。展示では来場者がそれらを一気にご覧になることができる。今の時代はもちろん現代から未来を俯瞰できるような、「ゆくえ」のいくつかの事例を見せていくような、ユニークな芸術祭だと思います。

衣笠委員:

美術のハードルを下げ、垣根をなくしたいという思いがあります。美術とか芸術の世界は、実は身近なもので、ある意味、ご飯を食べるよりも大事なものなのかもしれないと。

AAICによって、そういうふうに動かないかという期待は持ってるんですが…。

四方審査員:

元々美術って身近なものだったんですけれども、近代以降、美術館とか美術業界ができてすごく敷居が高くなっていましたよね。21世紀になってデジタル化が進み、今回のコロナ禍でそれがさらに加速化したことで、美術業界の人たちも、これまでの美術システムのままで良いのかと思い始めてきたし、一般の人々も美術と一緒に生きるとか、自分たちも何かを創ってみるとか、そういった気づきが出てきている気がします。

ささやかな日常の中で、自然の変化とか手触りの楽しさとか、そういったものへの気づきを含めて感性を磨いていく。世界との関係を作り直すということが今起き始めていると思うんですけど、その際に美術というのは、無意識的な部分も含めて、とても重要になってくると思っています。

衣笠委員:

美術っていうのは、いろんなジャンルの中で一番自由度が高くてタブーがない。最近、SDGsとかLGBTとか騒がれるようになりましたが、美術の作家、美術に関わる人々にとっては、今ごろ、と思う人も多いと思うんですよね。

そういう意味では、やっと、時代が美術の世界に追いついてきたのかなと。

四方審査員:

アーティストは、他者の存在に対して考える想像力がありますよね。人間だけじゃなくって人間以外の存在(森羅万象)に対しても考えていけると。社会的に普通に思われていること、誰もが疑問を持たないようなことに対して、アーティストは敏感で、気づくんですよね。ちょっと立ち止まって考えた上で、自分なりの表現として作品化してくるわけです。そういった重要なアンテナ的な存在であると思うんです。

四方審査員(下)、衣笠文彦(左上)・河西栄二(右上)企画委員

それがようやく社会的にも、時代的にも重要だとわかってきて、理解する人が増えてきたように思います。ただそれだけ時代が危機に瀕しているってことですよね。地球温暖化やコロナ禍など、地球規模な問題に私たちは直面している。

ただ、危機の時代っていうのは可能性の時代であると思っていて、危機だからと言って絶望せずに、それを自覚しながらみんなで良くしていけるといいなと。美術はこれまでも次の時代や世界を開いてきたし、開いていける可能性がある。美術が地下水脈のように全ての分野に浸透していくということを、私はポストパンデミックの時代に入った2020年からの自分のテーマとして取り組んでいます。

衣笠委員:

応募を考えている方たちに対して、どんなことを期待して、どういうものが見たいのかっていう辺りをお話いただけますか。

四方審査員:

前回の公募期間はコロナ禍前だったのですが、今回は、皆さんがコロナ禍を経験した中での公募となるわけですね。それを踏まえて、様々なことを考えていらっしゃると思うんですね。それをどのように企画にまとめて発信されるのか。今は時代の大きな転換期ですが、そういった中から生まれる構想を期待しております。

そして審査員が多様ですが、そのような審査員も驚くようなアイデアや、多分野からの応募を待っております。ジャンルを超えたコラボレーションも期待したいと思っています。

あと、人間を超えた時間・空間性を持って発想してもらいたいし、宇宙的な視点があってもいいと思うんですね。スケールが大きなもの、びっくり箱のように見たことがないもの、体験したことがないものを期待しています。

衣笠委員:

キューブについては、どのようにお考えですか。

四方審査員:

キューブというと、美術ではホワイトキューブという言葉がありますが、作品が安定的に置かれる空間として白い壁があったり、直線的な空間があるんですよね。

AAICのキューブは、そういう近代的な一つのシステムから出発した、均質的な空間でありながらも、それを自由に使えることがAAICの重要な特徴だと思っています。

逆にいうと、同じお題があることで、飛躍の度合いが試されているわけなんですよね。それに期待したいです。このキューブだからこそできることですね。キューブや今回のテーマを、それぞれが考えていくっていうことがすごく大切で、応募しなくても、考えていくことで何らかの発想が生まれたりと、自分なりに発展させていただきたいと思っています。

衣笠委員:

作品の見せ方としての作業といいますか、例えば、職人仕事も表現の一つであり大きな要素の一つとしてあるわけですが、今、その辺が軽視されているのではという気がしています。応募者には、見せ方、手技というところにもこだわってほしいのですが…。

四方審査員:

例えば、ドローイングの場合は、その身体的なリズムとか動きが痕跡として残っていきます。生々しい息づかいですね。それはコンピュータから出力されたものにはありません。職人仕事もコンピュータもそれぞれの特性と良さがあります。、古いものとか既に確立されたジャンルの表現もすごく重要です。逆に新しいメディウムが出現することによって見直されたり、新しい関係性を創っていくことができると思います。

今回のテーマの「リアル」についても触れておきますが、現実感・リアリティというのは、時代時代によって作り直されたり変化していくものですね。

よく私は、縄文時代の人たちの時間感覚や空間認識は、どのようなものだったのだろうと考えたりします。縄文人の「リアル」と今の私達の「リアル」とは大きく違うと思うんですね。

私たちの「リアル」は、20世紀以降の近代が確立され都市化が進んだ中での「リアル」ですけれども、それに加え、技術の進展によってデジタル世界での加速化や多様化が進んだ中での「リアル」があって、人間が知覚できないところで、それも非常に高速にいろんなデータがやりとりされ、生成、蓄積されている。そしてこのような「(もう一つの)リアル」が、私達のフィジカルな空間とか社会、心身にも影響してるんですね。

近代以降に確立された、私たちが自明と見なしてきた「リアル」がだんだん薄れ、崩れてきていている。生命や人間や、モノとしてこの世界に存在しているものを「リアル」であると認識していたつもりが、人間と非人間、生命と非生命など、境界がなかなか策定しにくくなってきている状況だと思うんですね。

そういう時代において「リアル」について考えるのは、まさに重要だと。社会とか世界が今揺れ動いて、メタモルフォーゼを起こそうとしている。それを敏感に感じて、勇気を持ってメタモルフォーゼの只中にいち早く飛び込んでいき、同時に外からも俯瞰するという二つの視点を持って行動してほしいと、それがやはり未来を開いていくというアーティストの重要なミッションだと思います。

とりわけ現在においては、「ライフ」(生命、人生)が社会においても美術においても大きなトピックとしてあります。それは自身も含めて様々な存在が生成変化をしていくという観点から世界と関係していくことといえます。そういったダイナミックな視点、発想を期待しています。

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