2022.03.31
AAIC企画委員委員会 衣笠文彦委員インタビュー
AAIC2023のスタートに際し、衣笠文彦企画委員にお話を伺いました。
Q AAICは今回で3回目となりますが、改めてこの展覧会に込めた思いをお聞かせいただけますか。
A 一般的に美術と言うと、まだまだ敷居が高いものというイメージがありますが、それを変えたいなと、昔から思っていました。AAICを立ち上げる時に、どういう展覧会にすべきか企画委員のメンバーとずいぶん議論しましたが、共通した思いは、美術を社会の中にもっと溶け込んだものにしたいということでした。
そのために何をすべきかと考えた時、審査員の選定が重要じゃないか。美術の専門家だけでなく、もっと違う分野の人を選ぼう。様々な方の意見、違う分野で活躍されている第一人者は美術をどのように見ているのか。きっと様々な見方がある。そのことを発信していくことで、美術に対するイメージを変えていきたいと思いました。
美術というのは、もともと自由な世界なんですね。下手とか上手いとかっていう価値観で推し量るものではなく。SDGsとかあるいはジェンダーレスとかっていう、最近問題になっていることを簡単に乗り越える力があるわけです。AAICはそういう、美術の可能性を示していく場でありたいと思っています。
Q 今回のテーマについては、どのようにお考えですか。
A 今はITとかAIとか、そういう言葉なくしては語れない、つまり、あらゆる情報が簡単に手に入る時代ですね。でも、その情報のリソースは、五感を通していろいろ感じて考えて、次の世界に進んでいき掴んだものですよね。それを、今、若い人たちは五感を通さずに、いきなり情報として得ている。その違いは大きいと思います。
そこで「リアル」という言葉が、まさにリアル感を持って浮かび上がってくるわけですね。コロナ禍によって、ステイホームで仕事や買い物ができる。ネット環境の進展で、時間と空間の制約が外れつつあることを誰もが実感しました。対面でのコミュニケーションやプロセス・手順というようなものがどんどん減って、今後ますますデジタルの世界で情報だけを得るという、便利なツールをみんなが持つという時代になっていく。そういう時代を、美術家や表現者たちはどのように見ているのか。大げさに言えば、自分が生きること、仕事だとか生きる意味って何だろうというようなことを、今の時代の中で捉え直し、それらを個々のリアルとして作家たちはどう表現するのか見てみたい。そんな思いから、今回の“「リアル」のゆくえ”というテーマが決まりました。それぞれの作家が思うリアルとは何かを強く表現してもらいたいという意味で、単なる言葉としてのリアルではなく、リアルに「 」をつけて際立たせたい、問題提起にしたいという意図があります。
Q 応募者に期待することは何でしょうか。
A 美術はコミュニケーションであると、審査員の山極さんがおっしゃいましたが、コミュニケーションということを考えれば、一方通行じゃなくて双方向性が必要だと思います。とは言っても、別に受け手側におもねる必要はない、忖度する必要は全くない。
コミュニケーションが成立するのは10年後かもしれないが、今、このことを伝えたい、感じてほしいという、表現する側がそのことさえ自覚していれば、いつかは、10年後か100年後か分からないが、コミュニケーションとして成り立つのだろうと思います。
ただ、少なくともそういう自覚がないまま、自分の思いだけでやってみても、それはコミュニケーションとしては最終的に成り立たないわけですから、そういう自覚は持ってほしいなと。その上で、忖度なしで、おもねることなしで、果敢に挑戦してもらいたいっていうことを伝えたいですね。